嫁か家内か妻か日常の呼び方と葬儀
私たちは日常の中で、自分の配偶者である女性を、様々な言葉で呼んでいます。「嫁」「家内」「女房」「ワイフ」「奥さん」、あるいは名前で呼び捨てにしたり、「ママ」と呼んだり。これらの呼び方は、夫婦の親密さや関係性を表す、プライベートなコミュニケーションの証です。しかし、一度、葬儀という公の場に立てば、その日常の感覚は一度リセットし、フォーマルな場にふさわしい言葉遣いへと切り替える必要があります。なぜなら、葬儀は個人的な集まりであると同時に、社会的な儀式でもあるからです。例えば、日常会話で自分の妻を「うちの嫁さんがね」と話す男性は少なくありません。これは、親しみを込めた表現として広く受け入れられています。しかし、葬儀の喪主挨拶で「亡き嫁、〇〇は」と言うと、多くの人が違和感を覚えるでしょう。前述の通り、「嫁」は本来、息子の妻を指す言葉であり、自分の配偶者を指す言葉としては厳密には誤用です。同様に、「うちの奥さん」という言い方も、本来「奥さん」は他人の妻への敬称であるため、自分の妻に使うのは正しくありません。「家内」は謙譲語として使うことができますが、その言葉の成り立ちからジェンダー的な配慮を欠くという意見もあります。では、なぜ「妻(さい)」が最も適切なのでしょうか。それは、「妻」が、特定の社会的文脈や上下関係を含まない、最もニュートラルで公的な続柄を示す言葉だからです。葬儀という場では、個人的な感情や関係性を超えた、社会的な立場としての言葉遣いが求められます。日常とフォーマルを意識的に切り分けること。それが、成熟した社会人としての品格を示す上で、非常に重要なことなのです。