夫として、愛する妻の葬儀で喪主を務める。それは、人生で最も辛く、そして重い責任を担う瞬間の一つです。深い悲しみと緊張の中で、参列者の前に立ち、感謝の言葉を述べなければならない喪主挨拶。その中で、亡き妻のことを指し示す言葉は、故人への愛情と敬意、そして喪主としての品格を示す、極めて重要な要素となります。では、どのような呼び方が最もふさわしいのでしょうか。結論から言うと、最も正式で丁寧な呼び方は「妻(さい)」です。例えば、「本日は、亡き妻、〇〇のためにご会葬を賜り、誠にありがとうございます」といったように使います。「妻」という言葉は、古くから使われている公的な呼称であり、へりくだる必要のない、対等な配偶者を示す言葉として、フォーマルな場に最も適しています。日常会話で使うと少し硬い印象があるため、使い慣れないかもしれませんが、このような厳粛な儀式の場では、この格調高さが求められるのです。もし「妻」という呼び方に抵抗がある場合は、「家内」という言葉も選択肢の一つとなります。「家内」は、本来「家の中にいる人」という意味から、自分の妻を謙遜して呼ぶ言葉です。喪主が参列者に対して謙譲の意を示す場面で使うことは、間違いではありません。しかし、近年では「女性を家の内に閉じ込める表現だ」として、その言葉の成り立ちを好まない人もいるため、誰に対しても失礼にあたらない「妻」を使う方が、より無難で現代的と言えるでしょう。一方で、「嫁」や「奥さん」といった呼び方は、たとえ普段使い慣れていたとしても、喪主挨拶の場では避けるべきです。「嫁」は本来、自分の息子の妻を指す言葉であり、「奥さん」は他人の妻への敬称だからです。大切な妻への最後の言葉だからこそ、最も敬意のこもった、正しい呼び方を選びたいものです。