「院居士」という格式高い戒名は、日本の仏教の全ての宗派で同じように用いられているわけではありません。特に、日本で最も門徒数が多いとされる浄土真宗では、他の宗派とは大きく異なる考え方を持っていることを知っておく必要があります。曹洞宗や真言宗、天台宗など多くの宗派では、故人の生前の信仰心や社会的な貢献度に応じて位階を設けた「戒名」を授けますが、浄土真宗では「戒名」という言葉を用いず、「法名(ほうみょう)」と呼びます。これは、浄土真宗の教えの根幹に関わる違いです。浄土真宗では、阿弥陀仏の本願を信じる者は、誰でも等しく救われ、浄土に生まれることができると考えられています。そこには、生前の行いや身分による差別は一切ありません。そのため、故人の功績によってランク付けをするような位号(信士や居士など)は、その教えに馴染まないのです。浄土真宗の法名は、帰依の証である「釋(しゃく)」または「釈」の字を頭につけ、その後に二文字の名前が続く「釋〇〇」という形が基本となります。これは、お釈迦様の弟子となることを意味しており、男性も女性も、どのような身分の人であっても、この形で平等に授けられます。したがって、原則として「院居士」のような院号や位号が付くことはありません。ただし、本山などに多大な貢献をした門徒に対して、特別な院号が本山から授与される例外的なケースも存在しますが、これはごく稀なことです。このように、同じ仏教であっても、宗派によって死後の名前に対する考え方は大きく異なります。自身の家の宗派がどこであるかを確認し、その教えを尊重することが、故人にとって最もふさわしい供養に繋がるでしょう。