葬儀に供物を贈るという行為は、日本全国に共通する文化ですが、その具体的な内容や形式は、地域によって驚くほど多様な特色を持っています。また、信仰する宗教によっても、供物に対する考え方は根本的に異なります。こうした違いを知ることは、相手の文化を尊重し、失礼のない対応をするために非常に重要です。地域性の例として、特に関東と関西では顕著な違いが見られます。関東では、缶詰や乾物などを中心とした、日持ちのする食品を籠に盛り合わせた供物が一般的です。これは、葬儀後に分け合うという実用的な側面を重視した文化と言えるでしょう。一方、関西では、色鮮やかな果物や、和菓子などを高く積み上げた、見た目にも華やかな「盛籠」が好まれる傾向があります。これは、祭壇を荘厳に飾り、故人への弔意を視覚的に表現することを重視する文化の表れです。また、特定の地域では、葬儀の際に大きな砂糖菓子や、故人の名前を入れた大きなパンなどを供えるといった、独自の風習も存在します。宗教による違いも明確です。仏式の葬儀では、前述のような食品や線香が一般的な供物となります。神式の葬儀(葬場祭)では、「神饌(しんせん)」と呼ばれるお供え物が捧げられます。これには、お米、お酒、塩、水といった基本的なもののほか、海の幸(魚や昆布など)、山の幸(野菜や果物)が含まれます。仏式と異なり、魚をお供えするのが特徴です。一方、キリスト教式の葬儀では、そもそも「供物」という習慣はありません。キリスト教では、死は神の御許に召されることであり、故人があの世で食べ物に困るという考え方をしないためです。そのため、教会での葬儀に供物を持参するのは、マナー違反となります。ただし、ご遺族の自宅に、お悔やみの気持ちとして生花(供花)を贈ることは一般的に行われます。このように、供物一つをとっても、その背景には多様な文化や宗教観が息づいているのです。
地域で違う供物の慣習と宗教上の意味