葬儀の場でどの呼び方を選ぶべきか迷った時、それぞれの言葉が持つ本来の意味や由来を知ることは、正しい判断を下すための大きな助けとなります。「妻」「家内」「嫁」「奥さん」。これらの言葉の背景を紐解いてみましょう。まず「妻(さい)」です。この言葉は、古くは「夫(つま)」と対になる言葉で、配偶者である女性を指す、最も基本的で公的な呼称です。特定の価値観や上下関係を含まず、続柄を客観的に示す言葉であるため、どのようなフォーマルな場面でも安心して使うことができます。次に「家内(かない)」。これは文字通り「家の中にいる人」を意味し、かつて男性が外で働き、女性が家を守るという生活様式が主流だった時代に生まれた言葉です。自分の妻をへりくだっていう謙譲語ですが、その背景から、現代ではジェンダー平等の観点から使用を避けるべきだという意見も増えています。続いて「嫁(よめ)」。この言葉の本来の意味は「息子の妻」です。自分の妻を指して「嫁」というのは、厳密には誤用にあたります。関西地方などでは慣習的に自分の妻を指して使うこともありますが、全国的なフォーマルな場では避けるべきです。最後に「奥さん」。これは、もともと公家や大名の妻が住む「奥の間」に由来し、身分の高い人の妻への敬称でした。それが一般化し、現在では他人の妻を敬って呼ぶ言葉として定着しています。したがって、自分の妻に「うちの奥さん」というのは、日本語として不自然な表現となります。これらの言葉の由来を知ると、なぜ葬儀という公の場で「妻(さい)」が最もふさわしいのか、そしてなぜ他の呼び方が不適切とされるのかが、論理的に理解できるはずです。言葉の背景にある文化や歴史に敬意を払うこと。それが、正しい言葉遣いに繋がるのです。